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NYマムダニショックで大混乱ー8/21みん天国際情勢セミナーお裾分け

ニューヨークで「富裕層にもっと課税を」という動きが進んでいます

※毎朝6:30から会員向けの国際情勢セミナーを行っています。今日は8月21日に行ったセミナーをちょっとだけおすそわけ

今日はニューヨークで起きていることを見ていきたいと思います。2026年1月にニューヨーク市長に就任したゾーラン・マムダニ氏は、民主社会主義者を自称する政治家で、選挙では生活費の高騰を大きな問題として訴え、富裕層や大企業にもっと税金を負担してもらおうという政策を掲げて支持を集めました。

マムダニ市長が現在求めている政策の一つが、年収100万ドルを超えるニューヨーカーへの所得税2%上乗せです。「100万ドル稼ぐ人なら年間2万ドル多く払えるでしょう」という考え方です。さらに、ニューヨーク州の法人税の最高税率を7.25%から11.5%へ引き上げることも提案しています。ただし、この二つはニューヨーク市長だけで決められるものではありません。州政府や州議会の協力が必要で、キャシー・ホークル州知事は大幅な増税には慎重な姿勢を示しているため、まだ実現した政策ではありません。

実際に始まった「ピエ・ア・テール税」

一方、すでに動き始めたのが、一般に「ピエ・ア・テール税(pied-à-terre tax)」と呼ばれている非主要居住用不動産への追加課税です。これは、ニューヨークに高額な住宅を所有しているけれど、そこを主な住居として使っていない人、つまり高級なセカンドハウスなどを対象に追加の税負担を求める制度です。

制度は2026年5月に成立し、7月1日から2026~27年度の課税が始まりました。対象となる可能性があるのは、ニューヨーク市財務局の評価額で500万ドルを超える1~3世帯住宅や、100万ドル以上のコンドミニアム・コープなどです。ただし、所有者本人や家族、テナントなどが主たる住居として使っている場合には原則として対象外になります。

ここまでは「ニューヨークに豪華な別宅を持っている富裕層から、もう少し税金を取りましょう」という、とても分かりやすい話です。ところが実際に制度を動かし始めたところで、大きなゴタゴタが起こりました。

約96万件の不動産情報が公開され、大混乱に

ニューヨーク市財務局は7月24日、この税制度に関連する「補足市場価値リスト」を公開しました。そこには約96万件にのぼる不動産が掲載され、所有者名や物件住所、評価額など、もともと固定資産税情報として公表されている情報を検索できる状態になりました。

ここで注意が必要なのは、この約96万件すべてがピエ・ア・テール税の対象になったわけではないということです。このリストは法律に基づいて広い範囲の住宅を掲載したもので、実際に市が「課税対象になる可能性があります」という通知を送ったのは約1万7,000件でした。

ところが、リストだけを見ると、自分の名前や自宅住所が「富裕層への新税に関係する物件」として公開されたようにも見えてしまいます。しかも、実際にはそこを主たる住居として暮らしている人にも通知が届きました。そのため「なぜ自分がセカンドハウス所有者として扱われるのか」「なぜ自分の方が対象外であることを証明しなければならないのか」という不満が一気に広がりました。

「自分はここに住んでいます」と証明しなければならない

市から通知を受け取った人のうち、「ここはセカンドハウスではなく、私は実際に住んでいます」という人は、自分で免除申請を行い、確定申告書や運転免許証などを使って主たる住居であることを証明する必要があります。

税金を取られるという問題だけではなく、突然「あなたは対象かもしれません」と言われて、自分で書類をそろえて「違います」と証明しなければならなくなったわけです。これがかなり大きな反発を生んでいます。

さらに8月には、この制度の運用方法をめぐって住宅所有者がニューヨーク市を提訴しました。裁判所は一時、市に対して制度の執行を止める命令を出しましたが、市側が控訴したため、その命令はいったん停止されています。つまり現在も裁判が続いている状態です。

マムダニ市長が富豪の自宅前で「この人から税金を取る」とアピール

この問題をさらに象徴的にしたのが、ヘッジファンド大手Citadel(シタデル)の創業者ケン・グリフィン氏です。文字起こしでは携帯電話会社のように話していますが、Citadelはアメリカを代表するヘッジファンド・金融会社です。

マムダニ市長は選挙運動中の2026年4月、グリフィン氏が所有するニューヨークの超高級ペントハウスの前で動画を撮影し、「Happy Tax Day, New York. We’re taxing the rich」と富裕層課税をアピールしました。グリフィン氏の住宅は約2億3,800万ドルで購入されたことで知られています。

グリフィン氏はこれに強く反発しました。自宅の前まで来て、個人を名指しして「この人から税金を取る」とアピールするやり方について、「気味が悪い」と批判しています。私も、税制そのものとは別に、個人の住宅を政治的なアピールに使うことには安全面の問題があると思います。ニューヨークでは1980年にジョン・レノンが自宅のダコタ・ハウス前で射殺された事件もありました。富裕層の自宅を政治的な標的のように見せることについて懸念が出るのも分かります。

Citadelは「ニューヨークよりマイアミへ」と投資を拡大

そして、こうした政策には経済への別の影響もあります。Citadelはすでに本社をシカゴからマイアミへ移していますが、グリフィン氏は2026年5月、マイアミへの投資をさらに拡大すると表明しました。一方、ニューヨークでは大規模な再開発計画を検討していましたが、マムダニ市政の姿勢を受けて計画を見直す可能性も示しています。

つまり、「富裕層からもっと税金を取れば、市民に分配できる」という話だけでは終わらないんですね。富裕層や企業が「それなら別の州へ行きます」となれば、そこで働いている人たちの雇用や、市に入ってくる法人税・所得税にも影響します。

もちろん逆に、「富裕層が多少税金を多く払ったくらいでニューヨークを捨てるわけではない」「大都市のサービスを維持するためには負担してもらうべきだ」という意見もあります。ここは現在、ニューヨークで非常に大きな議論になっています。

「Tax the Rich」は分かりやすい。でも実行すると難しい

マムダニ市長が人気になった理由の一つは、非常に分かりやすいメッセージを出したことです。物価も家賃も高い。一般の人たちは生活が苦しい。それなら、たくさん持っている人たちからもっと税金を取って、市民の生活に回しましょうという考え方です。

選挙の時に聞けば、とても分かりやすいですよね。ところが実際に制度を作ると、「誰を富裕層とするのか」「どの住宅が本当にセカンドハウスなのか」「誰がそれを証明するのか」「資産や企業がニューヨークから流出しないのか」といった難しい問題が一気に出てきます。

今回の約96万件の不動産リストをめぐる混乱は、まさにその象徴だと思います。「富裕層に課税する」という理念と、実際に行政が一人一人を判定して税金を徴収することの間には、ものすごく大きな違いがあるということです。

トランプ大統領はマムダニ市長を「共産主義者」と批判

トランプ大統領は以前から、マムダニ市長を「共産主義者」とかなり強い言葉で批判してきました。もちろんマムダニ市長自身が名乗っているのは「民主社会主義者」であって、共産主義者を自称しているわけではありません。ただ、トランプ大統領から見ると、富裕層や企業への増税によって富を再分配する政策は、アメリカが進むべきではない方向だということなのでしょう。

私は、このニューヨークで起きていることは少し注意して見ておいた方がいいと思っています。歴史を振り返ると、大きな社会変化というのは一つの国だけで起きるのではなく、同じ時期にさまざまな国で似たような政治運動や社会変化が起きることがあります。

富裕層と一般市民、大企業と労働者、既存の政治と新しい政治運動。この対立がこれからアメリカでどのように動いていくのか。そして同じような流れが日本を含むほかの国にも広がってくるのか。ニューヨークの市政だから自分たちには関係ないと思わずに、少し注目して見ておくといいと思います。

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